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    丁寧に、丹念に。江戸時代から続く技法で、頭師が命を吹き込むひな人形

    あなたの身近な場所に、日本伝統のモノづくりを守り続ける人がいることをご存じですか?
    へら浮子、節句人形、藤家具、篠笛、江戸蒔絵、とんぼ玉、美術刀剣、ちば楊枝、ちば黒文字楊枝・肝木房楊枝…。これはみんな、千葉県が指定する「伝統的工芸品」です。
    どれも、伝統的な技術によって作られていて、美的に優れているだけでなく、私たち日本人の日常生活や文化と深い関わりがあるものばかり。そんな、身近にある伝統工芸品とその製作者をご紹介します。

    子供の健やかな成長を祈って飾られる節句人形。特別なひと品を選びたいと思うのが親心です。そんな節句人形の価値を大きく左右するのが、顔であることは間違いないでしょう。

    今の時代、石こうを型に流し込んだ大量生産が主流ですが、そうした現代的な製法とは異なり、すべての工程を手作業で行う節句人形があります。

    千葉県が指定する伝統的工芸品の節句人形を作る岡村洋一さんは、節句人形の頭師(かしらし)です。
    頭、胴体、手、衣装、髪など、とても細かく分業されている節句人形の製作。頭師である岡村さんの仕事は、人形作りの要を担うものです。

    1_千葉伝統工芸_節句人形
    「一体百手」ともいわれる、手間をかけて仕上げられる節句人形
    職人たちの技が結集されている

    江戸時代から続く伝統技法が、手作りならではの豊かな表情を作り出す

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    頭師として技を磨き、45年以上になるという岡村さん。ずっと、江戸時代から伝わる技法にこだわり続けてきました。
    桐塑頭(とうそがしら)と呼ばれる伝統技法は、桐粉(きりこ)を固めて土台を作り、貝の殻でできた胡粉(ごふん)と膠(にかわ)を混ぜたものを塗り仕上げていくもの。

    30ほどもある工程のすべてを人の手で行います。その工程を、いくつかご紹介していきましょう。

    目入れ

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    桐粉に生麩糊(しょうふのり)を混ぜて固めた生地に、ガラス製の目を入れます。
    このとき、人形と目が合うように調整するのがポイント。「顔の良しあしは目で決まる」とも、「作る人の心が出る」ともいわれる、とても重要な工程の一つです。

    地塗り

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    奈良時代から日本画などに用いられている白色の顔料・胡粉。貝殻を焼いて粉状にしたものです。これに膠を混ぜたものを塗ります。
    湿気は大敵なので、胡粉と膠の調合には神経を使います。

    置上げ

    5_千葉伝統工芸_節句人形

    地塗りよりも少し固めに練った胡粉を盛り、顔に肉付けをしていきます。この加減で表情に変化が生まれます。
    肉付けする部分によって、胡粉の固さを変えて微調整。こうした細やかな気遣いが人形の仕上がりを左右します。

    切り出し

    6_千葉伝統工芸_節句人形

    顔全体に胡粉を塗る「中塗り」の後、水拭きをして顔を磨いたら、小刀で目や鼻、口を切り出していきます。中でも、目の切り出しは人形に命を与えるともいえる作業。職人として最も緊張する瞬間です。

    上塗り

    7_千葉伝統工芸_節句人形

    仕上げの塗りには、胡粉に膠ではなくゼラチンを混ぜて使います。刷毛(はけ)を使い5、6回重ねて塗ることで、きめ細やかな肌を作り上げます。

    彩色

    8_千葉伝統工芸_節句人形

    最後に、墨と紅を使ってお化粧を施します。岡村さんいわく、「弟子時代は、この彩色を任されることが多かった」のだとか。

    こうした技を守っている職人は全国でもごくわずか。岡村さんは、その貴重な担い手の一人です。

    ずっと残っていくものだから、一つ一つの作業に妥協しない

    実際に、目の前で頭作りの工程を見せてくれた岡村さん。一つ一つの作業にどれほどの神経を使い、どれほどの技が込められているのかを目の当たりにすることができました。

    例えば、地塗り、中塗り、上塗りと何度か行われる塗りの作業ですが、使われる胡粉はその都度、違うもの。塗りの目的に合わせて、固さなどを微調整しています。
    しかし、調整はそれだけではありません。同じ塗り作業に使う場合でも、季節や天候によって調整具合を変えていると、岡村さんは言います。

    9_千葉伝統工芸_節句人形
    自らが手がける頭を見つめる岡村さん
    その目は、我が子を愛でるように優しく、温かい。

    胡粉も膠も、生きて呼吸をしているため、同じ調合でも日によって固くなったり、柔らかくなったりするそうで、特に湿気は天敵。雨の日は塗りの作業をしないほどです。

    こうしたコンディションの難しいものだからこそ、日々、最も美しく仕上がるよう、調合の割合を調整します。そこには、長年、この伝統技法を守り続けてきた経験がなせる技があり、職人ならではの勘がものをいいます。

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    岡村さん愛用の刷毛
    使い込まれた一本一本が、職人の技を支えている

    妥協のない作業をする上で、もう一つ大切なのが道具。中でも、上塗りに使う刷毛は特別です。
    使い続けるうちに刷毛の毛が減ってくるのですが、10年、20年と使い続けたものが一番、具合がいいのだとか。

    買ってすぐの刷毛は使わず、練習などで使いながら慣らし、本当に使えるようになるまで待つのですが、それが10年、20年というのですから、職人のこだわりはすごいと言わざるを得ません。

    一生の宝物となるような節句人形を作り続けたい

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    かぶとのイメージが強い端午の節句だが、
    こうした五月人形を岡村さんは作り続けている

    岡村さんの工房は、そのまま、節句人形の販売スペースでもあります。
    訪れたお客さま一人一人に、岡村さんは人形作りの工程を丁寧に説明し、手作りだからこその魅力を語ります。

    それは、心を傾け、一つ一つに魂を込めた人形たちが、子供にとって、その無事を願う親にとって、かけがえのない存在になってほしいから。

    12_千葉伝統工芸_節句人形
    「売りたくない」と思えるほどの会心作を作りたい
    岡村さんの職人スピリットは、もっと上を、もっと前を目指している

    一生に一度のものだからこそ、世界でたった一つの自分だけの節句人形を選んでほしい。そんな想いを抱きながら、岡村さんは伝統技法を守り続けています。
    手作りの温かさを、次の時代へ伝えるためにも、その手が休むことはありません。

    (撮影) hiroki yamamoto
    (文) 伊藤佳代子

    人形師 岡むら
    住所:千葉県千葉市若葉区桜木北2-15-16
    電話番号:043-232-2290
    営業時間:10:00~19:00
    Webサイト:http://www.okamuradoll.com/

    この記事を書いた著者
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    lilimo編集部
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