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    思わず、手に取りたくなる。和の心とぬくもりを感じるガラスたち

    あなたの身近な場所に、日本伝統のモノづくりを守り続ける人がいることをご存じですか?
    へら浮子、節句人形、藤家具、篠笛、江戸蒔絵、とんぼ玉、美術刀剣、ちば楊枝、ちば黒文字楊枝・肝木房楊枝…。これはみんな、千葉県が指定する「伝統的工芸品」です。
    どれも、伝統的な技術によって作られていて、美的に優れているだけでなく、私たち日本人の日常生活や文化と深い関わりがあるものばかり。そんな、身近にある伝統工芸品とその製作者をご紹介します。

    光を受けて輝くガラスは、「きらきら」という表現がよく似合います。そんな概念を軽く吹き飛ばしてしまう、衝撃の出会いがありました。
    これまでのガラス工芸の概念を、いい意味で裏切る作品を見せてくれたのは、森谷糸さん。森谷さんが作るとんぼ玉は、千葉県が指定する伝統的工芸品に指定されています。

    「きらきら」ではなく「しっとり」と表現したくなる森谷さんのガラス細工。その中でも特に、とんぼ玉の質感には驚かされるばかりです。森谷さんにしか出せない、ぬくもりあるガラス細工とは一体、どのようなものなのでしょう。

    「好きだから」。至極シンプルで、これ以上はない創作の原点

    1_千葉伝統工芸とんぼ玉
    ガラスとは思えない風合いのとんぼ玉
    ホッと心が落ち着くような魅力を感じる

    ガラス製のビーズとも呼ばれるとんぼ玉は、女性にとっては工芸品というより、アクセサリーの一種としてなじみのあるものでしょう。
    その起源は明確ではないようですが、古代期の遺跡から採掘されていることから、弥生時代からあったとされています。原点はガラス工芸が盛んだったエジプトというのが定説のようです。

    森谷さんの手がけるとんぼ玉は、そうした原点をふと思い起こさせます。それは恐らく、古代ローマやエジプトの色柄をモチーフにすることが多いことと無関係ではないでしょう。

    なぜ、古代ローマやエジプトをモチーフとするのか。
    それは、原点を意識しているからではありません。もっとシンプルで納得のいく答えが、森谷さんにはありました。
    「好きだから」
    これは、森谷さんが作品を作る理由であり、原点でもあります。

    同じ理由で、森谷さんの作品には、日本らしさ――ちりめんや友禅といった着物の柄、青銅器に使われる金文など――も欠かせない要素。
    そして、森谷さんのとんぼ玉が透明感のあるガラスでないのは、少し不純物の混じった、完全に精製されていないガラスのほうが、温かみを感じて好ましいからなのだと言います。

    2_千葉伝統工芸とんぼ玉
    金文のほか、古代日本で使われたとされる神代文字もモチーフに
    独特の趣と存在感を覚えずにはいられない

    幼い頃、母のたんすを開けては、そこに収められた着物に憧れを募らせたという森谷さん。
    そうした着物への興味はやがて、漆や彫金、蒔絵(まきえ)、和紙など、様々な日本文化へと広がっていきます。
    それが、今の作品のベースになっているのです。

    作品づくりの肝は、オリジナリティ。だから、基本や基礎にとらわれない

    3_千葉伝統工芸とんぼ玉
    オリジナリティを大切に作品づくりに取り組むという森谷さん
    ほかでは出会えない、とんぼ玉を次々に作り出している

    森谷さんが、とんぼ玉やガラスの絵付けなど、ガラス工芸品を手がけるようになったのは、趣味の延長だったそうです。
    工芸師に弟子入りをしたわけでもなく、いわば、自分流で始めた創作。それ故なのか、森谷さんの作るガラス工芸品には、既成概念というものをあまり感じません。

    例えば、森谷さんが「千葉の玉」と呼んでいるとんぼ玉。これには、千葉県のシンボル4つが刻み込まれています。
    世界最古の花ともいわれる「大賀ハス」、農産物を育む「太陽」、水産が盛んな地であることをアピールする「魚」、そして、この地が有名な飛来地であると示す「水鳥」。それらがシンプルな図柄となっているのです。

    4_千葉伝統工芸とんぼ玉
    どこかエジプトの壁画の図案を思わせるデザイン
    その一つ一つに深い"千葉愛"を感じる

    「千葉の玉」は、図柄を彫って色付けしていますが、絵の付け方は作品によって様々。金太郎アメのように、棒状の色ガラスを埋め込んで絵柄を作る場合もあるそうです。
    それらの技法は、ガラス工芸職人としてというより、森谷さんが大好きな日本古来の文化――着物、蒔絵、ちぎり絵――などからヒントを得ることが多いのだとか。

    「日本人の気持ちの中にあるもの。自分の中に根付いているもの。それを静かに見つめて表現していきたい」という森谷さん。だからこそ、何よりもオリジナリティにこだわり、それを大切にしているのです。

    森谷さんの手が加わると、ガラスにぬくもりが灯るようになる

    5_千葉伝統工芸とんぼ玉
    ガラスの絵付けは、大好きな花をモチーフにすることが多い
    小さなグラスから花瓶や大皿まで、手がけた作品は数知れない

    森谷さんの作り出す作品は、とんぼ玉に限りません。ほかにも様々なガラス工芸品を手がけています。

    とんぼ玉づくりとほぼ同時期に始めたガラスの絵付け。こちらも、とんぼ玉同様に、どこか温かみのある仕上がりです。
    洋のイメージが強いガラスですが、森谷さんが描く和テイストの花柄をまとうと、和食や和室にとてもよく似合う落ち着きや艶を感じます。

    6_千葉伝統工芸とんぼ玉
    ランプの傘は、まるで和紙を貼り付けたような質感に驚く

    そのほかにも、和紙の質感を思わせるライトや、陶器を思わせるティッシュケースなど、ちょっとした生活用品も、森谷さんの手にかかると、たちまち目をひきつけてやまない「作品」となっていきます。

    7_千葉伝統工芸とんぼ玉
    なめらかなカーブを描いたデザインが美しいティッシュケースも見事

    作品への愛があるから、手を離れた後も愛してほしいと願う

    かつて、ファッション系専門学校の「ドレスメーカー学院」、通称・ドレメに通っていた森谷さんは、長くオートクチュールを仕事にしていました。
    そんな森谷さんだからこそ、作品を一つ一つ仕上げていく喜びを知っています。そして、お客さまと対面でコミュニケーションを取ることの大切さを、誰よりもよく知っています。

    森谷さんが対面販売を大切にするのは、お客さまとの対話を重視しているのが大きな理由です。

    「お客さまと直接お会いすれば、どんなものが似合うかが分かります。とんぼ玉なら、その人にぴったりと合う、たったひとつを見つけ出すことができます。だから私は、対面販売にこだわるんです」

    8_千葉伝統工芸とんぼ玉
    家族で営む森谷さんの工房「SPACE356」
    娘さんが今、森谷さんの後継者として修行中なのだとか

    自分の作品に愛情を持っているからこそ、それを身に着けてくださる、使ってくださるお客さまにも、作品を愛してほしい。
    そう願いながら、一つ一つの作品に和の心と自らの愛を込めて、森谷さんは作品を作り続けています。

    (撮影) hiroki yamamoto
    (文) 伊藤佳代子

    ガラス工房 スペース356
    住所:千葉県千葉市若葉区多部田町356番地
    ※ご訪問の際は、事前に工房のWebサイトのお問い合わせフォームからお問い合わせください。
    Webサイト:http://www.space356.jp/
    この記事を書いた著者
    lilimo
    lilimo編集部
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