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    貝殻で描く、色鮮やかな“絵画”。富山県高岡に伝わる螺鈿細工の世界

    玉虫色に光る、まばゆい絵柄の数々。角度によって様々な色合いに変化し、きらきらと輝きます。

    古代エジプト王朝以前から存在する装飾法で、世界中の工芸品に彩りを添えてきたのが、螺鈿(らでん)です。

    螺鈿とは、夜光貝、蝶貝、アワビ貝などの内側にある真珠層を削り出し、そのかけらを組み合わせて、絵柄や文様を表現する技法のこと。
    日本では奈良時代に唐から伝わり、主に漆器の装飾として、蒔絵とともに発展してきた歴史があります。

    1_螺鈿の手鏡の装飾面と鏡面
    螺鈿をあしらった漆塗りの手鏡
    貝殻で描かれた小鳥や果実がきらきらと輝く

    現代まで脈々と受け継がれる螺鈿の技法は、各地で独自の発展を遂げてきました。
    その代表的な例は「奈良漆器」や「琉球漆器」などに見られますが、ここでは色彩表現の豊かさで異彩を放つ、富山県高岡市の螺鈿細工について紹介します。

    螺鈿の可能性を広げた「青貝塗」の技法

    高岡市は、江戸初期から続く“ものづくりの町”として知られています。
    国内9割のシェアを誇る「高岡銅器」が有名ですが、それに次いで盛んなのが漆器の生産。この「高岡漆器」を代表する装飾法こそが、螺鈿なのです。

    2_螺鈿細工の輝き
    螺鈿特有のきらめき
    真珠層の光沢が目に飛び込んでくる

    高岡螺鈿細工の独自性は、貝を極限まで薄く削る点にあります。
    一般的な螺鈿の場合、貝の厚みは1.5〜2.0mm程度、薄いものでも0.2〜0.3mm程度です。ところが、高岡の螺鈿はさらに薄い0.07mm〜0.1mm。

    その薄さゆえに、貝の裏面に塗料で色を付ければ、その色が表面まで透けて見えることになります。これにより、通常の螺鈿細工では難しい、バリエーション豊かな色彩表現が可能になるのです。

    この薄貝を用いる技法は「青貝塗」(あおがいぬり)と呼ばれ、「勇助塗」「彫刻塗」と並ぶ高岡漆器ならではの技法だといいます。

    3_青貝塗の宝石箱
    青貝塗の宝石箱「梅に樫鳥」
    色使いが自由になることで、より写実的な絵付けが可能に

    私たちがよく目にする厚貝の螺鈿は、真珠層の輝きが非常に美しく見える反面、色を付けるのが難しく、その表現はどうしても限られたものになります。

    4_厚貝の螺鈿細工
    一般的な厚貝の螺鈿細工
    真珠層の輝きが美しい反面、色の表現は限られる

    しかし、その輝きに色を加えることができれば、表現の幅は大きく広がります。
    多彩な配色とグラデーション、それらを駆使することで、色彩豊かな「日本の四季」すら描けるようにするのが、青貝塗の技法なのです。

    それは、螺鈿本来の豪華絢爛な輝きを活かしつつ、その可能性を大きく押し広げた技法といえるかもしれません。

    5_螺鈿の手鏡「楓にシジュウカラ」
    細やかな色使いで描かれる“日本の秋”
    貝の光沢と調和して目にも鮮やか

    貝のかけらに命を与える“匠の技”

    そんな青貝塗の特色を最大限に活かした螺鈿細工を手がけてきたのが、高岡の名工、武蔵川義則。
    国が認める「伝統工芸士」の資格を持ち、国内で数々の賞を受賞してきた“現代の匠”です。

    6_螺鈿の手鏡「桜に樫鳥」
    武蔵川義則が手がけた「桜に樫鳥」
    エレガントな雰囲気が漂う手鏡

    武蔵川が得意とするモチーフは、美しく気品あふれる花鳥風月と「日本の四季」。
    いまにも動き出しそうな草花と小鳥たちが、玉虫色の光沢をまとって描かれます。計算された構図、繊細な色使いなど、絵画的な意匠に満ちた作風です。

    7_螺鈿細工の制作風景
    刀、針、のみなどを駆使して絵付けを行う
    貝のかけらに命を与える作業

    当然、その制作には大変な緻密さが求められます。
    薄く削られた貝の裏面に何色もの塗料を重ね、花びらや小鳥の美しい色合いを表現。さらに、専用の道具で線を彫りつけることで、羽の一枚一枚や、植物の葉脈といった細部を描き入れていきます。

    8_螺鈿細工の細部
    細部まで描かれた鳥は、いまにも飛び立ちそう
    まさに「神は細部に宿る」

    これらの作業の結果得られる写実性はまさに、高岡の螺鈿細工(=青貝塗)ならではの魅力そのものです。

    ものづくりの伝統を受け継ぐ“極上の日用品”

    高岡のものづくりの起源は約400年前、江戸初期にまでさかのぼります。
    加賀百万石を治めた前田利長が高岡に城を構えたとき、7人の鋳物職人を招いて日用品を作らせたのが始まりだそう。漆器の生産は江戸中期〜後期、京都の技術が持ち込まれて以来、盛んになったといわれています。

    9_高岡市街と路面電車
    伝統工芸のほか、工業も盛んな高岡市
    古くから路面電車が走る市内は活気にあふれている

    青貝塗が生まれたのは、さらに時代を下った明治初期。立野太平治や石瀬松次郎といった職人たちが確立したスタイルだそうです。

    そして、この石瀬松次郎に青貝塗の手ほどきを受けたのが、武蔵川義則の祖父にあたる人物。つまり、武蔵川の技は、青貝塗のルーツと伝統を受け継いだ、文字通りの正統派なのです。

    10_抽斗と螺鈿の宝石箱
    本当に優れた工芸品ほど、
    日々の暮らしに自然と溶け込むのかもしれない

    装飾的な要素の強い青貝塗は、もともと日用品にはあまり活かされなかった技術だといいます。
    ところが現代では、より身近な暮らしの道具にも見られるようになってきました。

    私たちの日常にさりげない華やかさを添えてくれる高岡の螺鈿細工。
    それは長い歴史と卓越した技術、そして職人の美意識が結晶した、“極上の日用品”といえるかもしれません。

    (撮影) 大橋祐希
    (取材協力) 株式会社 雅覧堂

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