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    職人こだわりの桐製米びつ、竹本木箱店の総桐計量米びつ「米蔵」。毎日使うお米だから、おいしいを”当たり前”に

    日本人の主食お米を保管する「米びつ」は、どこの家庭でも見かける日用品の一つです。
    安価なプラスチック製が主流ですが、見た目がおしゃれなガラス製、ホーロー製など、様々な素材、形状のものがあります。中でも、昔からお米の保管に理想的といわれているのが桐製の米びつです。

    桐材には、防虫効果や湿度調節といった天然作用があり、水分や温度管理が肝心なお米を守ってくれる最適な素材です。
    こうした優れた利点のある桐材を使った米びつを、一つ一つ手作りで丹精込めて作っている職人が、富山県高岡市にいます。毎日食べるお米を保管する“日用品”だからこその、職人のこだわりと情熱が詰まった米びつをご紹介します。

    1_富山の米びつ
    竹本木箱店の総桐計量米びつ「米蔵」
    富山県高岡市の小さな工房で一つ一つ手作りで製作されている

    米どころ富山県で、木箱ひと筋に手業を磨いた職人の米びつ

    富山県高岡は約400年前、加賀藩主・前田利長によって城下町として開かれた町です。
    良港にも恵まれ、豊かな穀倉地帯にあることから「加賀藩の台所」と呼ばれるほど栄え、商工業都市として発展してきました。
    今でも銅器や漆器などの伝統産業が盛んで、町民文化が受け継がれる風情ある町並みが多く残っています。その歴史的な意義が高く評価され、昨年、文化庁の「日本遺産」にも認定されました。

    2_富山の米びつ
    眼光鋭く頑固な職人というイメージがぴったりの竹本さん
    工房を離れると、お米とお酒と郷土を愛する、やっぱり頑固な親父

    この高岡の地に職人の子として生まれ、木箱ひと筋に手業(てわざ)を磨いてきたのが竹本木箱店の社長で指物師(※)の竹本力雄さんです。
    ※指物師(さしものし):板を差し合せて作るタンスや机などの家具を作る木工職人
    社長といっても、たった3人の小さな小さな会社は、「せっちゃん」(竹本さんの奥さん)、「ひさちゃん」(奥さんの妹)と呼び合う家族経営。竹本さんは、短いお盆休みとお正月休み以外は、朝から工房で作業に没頭する毎日です。
    手を動かすことが好き。そうはいっても、月間最大500個の米びつを一つ一つ手作りするのは、並大抵のことではありません。

    おいしさを求めて、たどり着いた"日用品"としての米びつ

    3_富山の米びつ
    桐材の角を取るために鉋をかける「あらどり」作業
    身体に染み込んだ熟練の手業(てわざ)だ

    使うたびにお米をおいしく感じます――。
    米びつを購入した愛用者からお礼の手紙が届くこともあると、笑顔を見せる竹本さん。でも…と語気を強くして言った言葉が、心に響きます。

    「そもそも主食がうまいということが、おかしい。毎日食べる主食のお米こそ、うまいのが当たり前であってほしい」

    農家さんが一生懸命に育てた“お米をおいしくいただけること”が当たり前の日本人のライフスタイル。竹本さんは、そんな“当たり前”をたくさんの人に届けたい、と思っています。
    派手もん(見た目が派手なもの)や高級工芸品としてではなく、日用品として使い勝手が良く、なるべく安価で、手に入れやすい桐の米びつを作ること。それが、職人としての頑固なこだわりです。

    竹本木箱店の桐米びつ製作風景(動画)
    箱組み、鉋かけなど、作業は工程ごとにまとめて行う
    効率良く作業するための工夫だ

    桐材がお米の保管に向いている理由とは?

    桐は、もともと中国大陸が原産の木で、中国では伝説の鳥「鳳凰(ほうおう)」が止まる神聖な木とされています。日本には飛鳥時代に渡来し、琴などの楽器をはじめ、下駄やタンスなどの日用品まで、幅広く使われてきた木材です。
    成長がとても早く、15年から20年で成木となります。そのため、昔の農家には、女の子が生まれると桐を庭に植え、その子がお嫁入りするときに成長した桐の木を切り、タンスを作って嫁入り道具に持たせるという風習もありました。

    4_富山の米びつ
    桐には、素材が持つ天然のパワーがある
    湿度調節、防虫・抗菌効果、断熱・保温性は米の保管にも向く
    【古くから知られている桐が持つ特性】
    • 湿度調節機能
    • 桐は、多孔質(たこうしつ)という空気の層をたくさん持つ構造をしている。湿気が多いときには水分を吸収し、乾燥しているときは水分を吐き出す、いわば呼吸のような調整機能。これにより、内部の湿度を一定に保って、中身を湿気やカビから守ることができる。

    • 防虫・抗菌効果
    • 桐はアルカリ性が強く、タンニンなどの虫が嫌う成分をたくさん含んでいることから、防虫効果がある。大切な書類や着物、米びつに桐材が古くから使われてきた理由の一つ。

    • 断熱・保温性
    • 空気の層がたくさんある多孔質であることから、外気温の影響を受けにくい。さらに、桐の熱伝導率(熱の伝わりやすさ)は樹木の中でも低いため、断熱性と保温性に優れている。

    桐材のこうした特性が、乾燥や虫を嫌うお米の保管にも向いています。
    お米は一般的に、(1)10~15度の涼しい場所、(2)直射日光が当たらない暗い場所、(3)温度と湿度が低い場所、に保管すると鮮度が維持できるといわれているので、米びつの置き場にも注意するとなお良いでしょう。

    5_富山の米びつ
    米びつの底を削って平らにする「円盤」と呼ぶ機械
    削りかすが、壁を装飾するかのように埋め尽くす

    娘を想う気持ちと、お米を大切にする気持ちから生まれた米びつ

    ところで、竹本さんがここまで頑固にこだわる米びつは、何がきっかけで生まれたのでしょうか。

    竹本さんは幼いころから「勉学は苦手で職人の子として生まれた自分には職人の道しかない」と心に決めていたそうです。木工訓練所に通って木箱店に勤めた後、鋳物の木型を作る木型師としても活躍しました。
    自分で工房を構えてからも木箱ひと筋の仕事に打ち込み、高級日本酒を入れる桐箱を作ったり、富山の一部地域で祭礼に使われる「獅子頭」を桐で作って新聞に取り上げられたこともありました。

    6_富山の米びつ
    本体と受け皿の引き出しの間には隙間がある
    米粒が詰まったり、桐材が膨張して開けづらくなるのを防ぐ

    そんな中、大学進学で故郷を離れて一人暮らしをする娘のために、桐箱に詰めたお米を送っていました。
    ある時、実家に帰省した娘に話を聞くと、友人たちが実家から送ってもらったお米は時間とともに虫がわいてしまったというのに、竹本さんが桐箱に詰めて送ったお米には、全く虫がわかなかったというのです。

    「虫がわいてしまったり、鮮度が落ちてしまったお米が、おいしいわけがない。日本人の米離れは、これが大きな原因になっているのではないか」

    この出来事をきっかけに、桐製でしかも指物師の竹本さんだからこそ作ることのできる、おいしいお米を保管するための米びつ作りが始まりました。

    7_富山の米びつ
    本体前面にある計量つまみを、ゆっくり手前に引き出す
    お米が1合ずつ、下の受け皿に落ちる仕組みだ

    そして5年の歳月を経て、お米の保管に最適な桐製であること、日用使いするために計量しやすい仕組みであること(特許第3650715号の計量機能)、なるべく安価にすることにこだわった、竹本木箱店の「総桐計量米びつ」が出来上がったのです。

    桐材の特徴を熟慮し細部に目を配る、職人としてのこだわり

    竹本さんの米びつには、職人としての手業が存分に込められています。
    それは例えば、キッチンに置いたときに圧迫感を与えないように、約3度、後ろに傾斜するように鉋がけされていることなど、言われなければ気が付かないこともあります。

    x_米びつ

    米びつに使われている桐材は、中国産の輸入材です。
    というのも、桐材の国内生産量は1959年のピーク時と比べるとわずか2%。日本では桐材の国内需要のほとんどを、主に中国からの輸入に頼っています。
    この背景には、1970年代初め、高度経済成長や適齢期を迎えた団塊世代からの消費需要を国内でまかうなうことができずに、中国からの輸入を本格化させて桐材の安定供給を図ったことがあります。

    現在、桐材業者の高齢化などが進み、国産の桐材は入手が難しい木材になっていますが、中国からの輸入によって、安定して安価な桐材が手に入るようになりました。

    8_富山の米びつ
    日本で広く普及している接着剤を使って接着する
    新しい技術を取り入れるのが、竹本さん流だ

    ギリギリまでコストを抑えて価格を安くするため、時間や原価のかかる工程はあえて避けて現代技術を活用しているのが、竹本さんの職人としての頑固なこだわりです。

    桐材はとても柔らかい素材のため、鉄釘や金具を使う製法は向いていません。
    伝統的な製法では、代わりに木釘を使ったり、難しい組み木を施したりします。ただ、そうなると、工数もかかって価格が高くなってしまいます。そのため竹本さんは、接合部には柔らかい桐材の接合に最適な接着剤を活用しています。

    また、お米を計量する引き出しの裏にあるホッパー可動部は、テープを活用して利便性をよくしています。稼働部のテストを何度も繰り返して、機能面への影響はないといいます。

    9_富山の米びつ
    桐材の特徴の一つは、軽く柔らかいこと
    毛羽立たないように桐にかける鉋は、部位によって使い分ける

    国産桐材を使ったり、すべてを伝統的な製法で作ってしまうと、5万円、6万円もする高価な米びつになってしまう。お米がおいしく保管できる桐の米びつを、なるべく安く、1つでも多くの家庭で使ってほしい。
    そんなこだわりから、職人の手業を活かすところは活かし、機能面で影響のない部分は合理的な手法でシンプルな製法にしているのです。

    日本の伝統と最新技術を“未来”へつなげる現代の職人

    竹本木箱店がある富山県高岡市には、今年3月に開業1周年を迎えた北陸新幹線の新高岡駅があります。
    北陸新幹線の車両デザインコンセプトには

    日本に受け継がれてきた和の価値や美意識に光を当て、さらに未来へとつなげていきたいという願い

    が込められているそうです。

    10_富山の米びつ
    「蔵」は大切なものを保管する場所
    「米蔵」には、お米を大切に保管するという意味がある

    最新技術と日本の伝統が融合し、未来へと進む――。

    竹本さんの米びつには、派手な見栄えはありません。愚直で、シンプルなたたずまいです。
    しかし、毎日使う日用品を通して、日本人のライフスタイルを見つめ直すその姿は、現代を活きる職人としての、未来への挑戦のようにも思えます。

    今年67歳の竹本力雄さん。北陸新幹線が疾走する富山県高岡で、未来へ向かって、今日も頑固に米びつと向き合っています。

    (撮影) hiroki yamamoto
    この記事を書いた著者
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