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    デザインと職人技が生んだ、時代を超えて愛される天童木工のスツール

    今年8月に開催されたリオデジャネイロ五輪。史上最多41個のメダルを獲得した日本選手の活躍は、日本中を熱くし、感動を呼びました。
    そのリオ五輪で、男子団体「銀」メダル、女子団体「銅」メダルを獲得した卓球競技に使われた公式卓球台が、日本製だったことをご存じでしょうか?

    卓球台や遊具を手がけるメーカー三英の新型卓球台『infinity(インフィニティ)』です。カーブを描いた独特のフォルムが印象的な脚部の製作は、家具メーカーの天童木工が担当しました。

    語り尽くせないエピソードを持つ、世界中から称賛されている家具メーカー天童木工。その魅力の一端をご紹介します。

    1_天童木工
    天童木工の代名詞的「バタフライスツール」(メープル)
    日本のプロダクトデザインの礎を築いた柳宗理のデザイン

    将棋駒、ラ・フランス、そして天童木工

    山形県東部に位置する人口約63,000人の天童市。
    江戸時代に天童織田藩家老が奨励した将棋の駒づくりが有名で、今では生産量日本一の将棋駒の産地となっています。
    天童温泉をはじめ、山形特産のさくらんぼ、桃やぶどう、生産量日本一のラ・フランスと、豊かな自然にも恵まれた土地です。

    2_天童木工
    本社に併設されている工場内の床は木張りだ
    製品や工程ごとに作業スペースが分かれている

    天童木工は、この天童市に本社と工場を置く1940年創業の家具メーカーです。もとは地元の大工、建具、指物業者が集まって、天童木工家具建具工業組合を結成したのがはじまりでした。
    戦後、急務となっていた住宅供給とそれに伴う家具需要に合わせて成長し、その間、多くの有名デザイナーや建築家とコラボレーションした名作家具を生み出したのです。

    日本のライフスタイルと欧米のモダンを融合させた“和風モダン”な日本の家具史は、天童木工が切り拓いてきたと言っても過言ではありません。

    天童木工の製品には、その歴史や物語られてきたストーリーがあります。
    それは、確かな「価値」となって、品格すら漂わせます。
    伝統に裏打ちされた「憧れ」となるような家具を作り続けること、
    それが、わたしたちの願いです。


    すべては、お客様の喜びのために。

    (天童木工WEBサイトより)

    "成形合板"のパイオニア、職人技を究めた天童木工

    3_天童木工
    木のぬくもりと繊細なフォルム
    それを可能にするのが成形合板の技術だ

    天童木工を語るときに欠かせないのが “成形合板”(せいけいごうはん)という木を加工する技術です。

    “成形合板”とは、接着剤を付けた薄い板を重ねてプレス機械で成型する技術で、圧力と熱によって、型に合った形状に木を曲げることができます。強度や軽さを兼ね備えるとともに、無垢材では表現できない、継ぎ目のない繊細なデザインの製品を作ることができるのが大きな特長です。

    4_天童木工
    製品ごとの形状に合わせた成形合板のプレス機を使う
    写真は「バタフライスツール」のプレス機

    終戦直後の1947年、日本で初めて成形合板の技術を取り入れた天童木工は、宮城県仙台市にあった工芸指導所(※)の指導も受けながら、技術を進化させてきました。
    1970年代までの高度経済成長期に、その成果が一気に開花します。成形合板の技術に刺激を受けた有名デザイナーや建築家とのコラボレーションによる名作家具が、数多く生まれています。

    剣持勇、柳宗理、ブルーノ・マットソン、水之江忠臣、丹下健三、磯崎新、黒川紀章。才能にあふれるクリエイターによる家具は、実用品であるとともに時代を象徴するデザイン作品です。

    ※工芸指導所:1928年に当時の商工省が設立。伝統的な工芸技術をデザインによって活性化させ、新しい時代の産業技術へと対応させることを目的に活動した。

    5b_天童木工
    職人たち手作りの鉋。大きさも形も様々
    鉋をかける場所に合わせて使い分ける

    デザインの創造性をいかんなく発揮できる成形合板で忘れてならないのは、デザインを実際の形にするために、技術力と職人魂で応えてきた職人たちの存在です。
    たとえ生活を彩るデザイン的な美しさがあったとしても、出来上がった製品の安全性や品質に不備があっては家具として成り立ちません。

    すべて手作業で製造されるその工程ごとに、日々、技を磨きながら物作りに取り組む職人たちがいます。

    6_天童木工
    プレス機に書き込まれた作業のポイント
    歴代の職人たちの工夫と技術が継承されている

    例えば、成形合板の“要”であるプレス型では、製品の形(デザイン)によって、上下からプレスするものもあれば、左右や斜め、多方向からプレスするものがあり、熟練の技が求められます。
    作業のコツや曲げの技術は、歴代の職人たちによって受け継がれ、その時々の職人たちの工夫が加えられて、進化し続けてきたのです。

    天童木工の代名詞、柳宗理デザイン「バタフライスツール」

    7_天童木工
    現行品/メープル(左)と、60年代、輸出用に検討された、ひとまわり大きなサイズの試作品(右)

    柳宗理(1915~2011年)は、日本のプロダクトデザインの礎を築いた工業デザイナーで、鉄フライパンやステンレス包丁、ケトルといったキッチンウエアのデザインでも有名です。
    その柳宗理が手がけたのが、天童木工の代名詞的な存在となっている1956年発表の「バタフライスツール」です。

    成形合板の技術を最大限に活かしたその造形は海外でも高く評価され、ニューヨーク近代美術館パーマネントコレクションにも選定されました。

    8_天童木工
    木材のどの場所が「バタフライスツール」にふさわしいのか
    職人が1枚1枚、木目を見ながら型どりする

    成形合板の特長を最大限に活かした「バタフライスツール」は、同じ形の2枚の成形合板、真鍮製のジョイント金具、それを止めるボルトとナットというシンプルな構造をしています。
    厚さわずか7mmの成形合板が描くフォルムは、洋室にも和室にも似合う、美しいたたずまい。蝶が飛ぶような造形は、図面に描くことなく、手の感覚を頼りに生まれた形です。

    9_天童木工
    表面に使う材料に光を当てて1枚1枚チェックする
    天然木のため、木の節目や凸凹があるからだ

    各工程は専任の職人が担当していて、その道を究めています。すべて手作業で行われるため、どの工程も手を抜けない作業です。集中力を失えば、デザイナーの描いた世界観が崩れ、品質にも影響します。
    木材選びから各工程を経て完成するまで、それぞれの職人がリレーをして、スツールに命を吹き込んでいくようです。

    10_天童木工
    「バタフライスツール」の真鍮製金具を取り付ける最後の工程
    ボルト1つ締める時間にも緊張感が走る

    脈々と息づく「Tendo」と「天童」の心意気

    よく天童木工は“高級家具”メーカーと称されます。
    有名デザイナーとのコラボレーションと、成形合板のパイオニアとして築き上げてきた技術によって作る家具には、それに見合う品質と価値があります。ただ、天童木工の特色は“高級”という記号だけで、ひとくくりにされるものではないような気がします。

    「メイドインジャパン」もうれしいですが、「天童(山形)」と紹介されると、とってもうれしいですよね。

    取材に対応いただいた広報の稲葉さんは、そう言って笑顔で工場を案内してくれました。帰途につく際には「おいしい蕎麦屋さんがあるんですよ」と天童の観光マップを手にして――。

    整然と整頓された工場内、快く取材に応じてくれるそれぞれの担当班で働く従業員のみなさん。親子3代にわたり天童木工で働く家族もいるといいます。

    11_天童木工
    工場内にあった職人手作りの木製ちりとり
    ふとしたものにも物作りへの心意気が宿る

    世界の「Tendo」を支える根底には、紛れもなく「天童」で働く人々の地に足をつけた暮らし、物作りへの心意気とそれを生み出す風土が脈々と息づいています。
    だからこそ、世代を超えて受け継がれていくような、豊かな物作りができるのかもしれません。

    (撮影)大橋祐希
    (取材・撮影協力)天童木工のみなさん
    (参考資料)『Tendo Classics』天童木工発行
    『天童木工』菅澤光政著・美術出版社発行

    この記事を書いた著者
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    lilimo編集部
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