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    ぶどうの数だけ、物語がある。人気の国産品種はこうして生まれた

    一説によると、ぶどうは世界でもっとも多く栽培されている果物。ここ日本にも、数百種類のぶどうがあるといわれています。
    その多くは、生産者が理想のぶどうを求めて、品種改良を重ねてきた労作。つまり、ぶどうの数だけ、開発に至るまでのストーリーがあるのです。

    ここでは、5種類の人気国産ぶどうを取り上げて、その開発背景や味の特徴などを紹介します。



    “女王”の香り。「シャインマスカット」

    1_シャインマスカット

    ぶどう栽培が盛んなヨーロッパには、「マスカット・オブ・アレキサンドリア」という、紀元前から続くぶどうがあります。
    日本で一般的に「マスカット」といえば、この品種のこと。“ぶどうの女王”と呼ばれるほど、上品で芳醇な香りが特徴です。

    ところが、日本のように雨が多い地域では、この品種を育てるのは難しいとされています。
    どうにかして、日本でも“女王”に近いぶどうを作れないか。その想いから生まれたのが、果樹研究所によって開発された「シャインマスカット」です。

    2_シャインマスカットの栽培

    開発までの道のりは険しいものでした。
    まず、「マスカット・オブ・アレキサンドリア」を、日本の雨に耐えられるアメリカ産「スチューベン」と交配。
    その結果、「安芸津21号」という品種が生まれますが、これは肉質こそ“女王”に近いものの、その香りはほど遠かったそう。

    そこで、品質と味は最高だが、果皮の汚れがひどく、商品化には至らなかったという「白南」を交配させたところ、ようやく豊かなマスカット香を持つ「シャインマスカット」が誕生します。

    3_シャインマスカットの断面

    “ぶどうの女王”を受け継いだ上品な香りとリッチな甘み、大粒で種がなく、皮ごと食べられることなどから、いまでは「巨峰」と人気を二分するほどの品種です。



    「巨峰」を超えるぶどうを。「ピオーネ」

    _井上農園の種なしピオーネ

    「巨峰」を超えるぶどうを作りたい――。
    “黒い真珠”と呼ばれる「ピオーネ」を開発した井川秀雄は、そんな想いに突き動かされた生産者でした。

    井川がぶどうの育種を始めたきっかけは、日本ぶどうの定番「巨峰」を生んだ大井上康との出会い。
    大井上から手ほどきを受けた井川は、「巨峰」よりも栽培が容易で、品質も上をゆくぶどうを作りたいと考えるようになります。

    4_ピオーネの収穫

    そこで、マスカット香の強い欧州種「カノンホール・マスカット」と「巨峰」を交配(※)。
    その結果、「巨峰」よりも香り豊かで、日持ちもいいとされる「ピオーネ」の開発に成功したのです。 ※「ピオーネ」と「カノンホール・マスカット」は無関係とする説もあり。

    強い甘みと爽やかな酸味のバランスがよく、口いっぱいに果汁が広がる「ピオーネ」は、いまでは日本有数の高級ぶどうとして知られています。

    5_ピオーネ

    「誰がなんと言っても、やってみないとわからない」。生涯で約1,000種ものぶどうを育てた井川秀雄は、生前そう語っていたといいます。
    「ピオーネ」はイタリア語で“開拓者”を意味する言葉。まさに、井川の生き様が詰まったぶどうなのです。



    皮まで味わえるように。「ナガノパープル」

    6_ナガノパープル

    いまでは決して珍しくない、皮ごと食べられるぶどう。
    ですが、「ナガノパープル」が開発された1990年当時、ぶどうは皮をむいて食べるのが当たり前でした。

    シャリシャリとした皮の食感まで楽しめる。そんな画期的なぶどうを作ったのは、長野県果樹試験場。
    「皮をむくのが面倒」という消費者の声に応える形で、「ナガノパープル」の開発はスタートします。

    開発の際にこだわったのは、皮ごと食べられることに加えて、「巨峰」のような黒々とした艶やかさ。
    そこで、「巨峰」をベースに、果皮の薄い欧州の高級種「リザマート」とのかけ合わせが行われました。

    7_ナガノパープルの断面

    その結果、「巨峰」のように黒くて大粒、それでいて皮をむかずに食べられる「ナガノパープル」が誕生します。
    さらに、消費者のもう一つのニーズである“種なし化”にも成功。10年がかりの試行錯誤の末、この長野県オリジナルの新品種は完成したのです。

    「ナガノパープル」の特徴は、果肉はしっかりとした歯触りで、酸味が少なく、すっきりとした甘さを持つこと。
    そこにわずかな皮の渋みと、シャリシャリと心地よい食感が加わります。

    全体としてバランスの取れた味わいが楽しめるぶどうです。



    大粒ぶどうの夢。「ルビーロマン」

    8_ルビーロマン

    ぶどう1房、110万円。
    信じられない価格ですが、2016年の初競りで、実際に「ルビーロマン」が競り落とされた価格です。
    それだけの値がつく背景には、開発に費やされた14年の歳月と、非常に厳しい出荷基準がありました。

    「ルビーロマン」を生み出したのは石川県。
    もともとぶどう栽培が盛んな地域ですが、その気候の特性上、大粒品種を育てるのは難しいとされています。
    「石川にも大粒ぶどうを」。それが栽培農家の願いでした。

    9_ルビーロマンを持つ

    そこで開発に乗り出した石川県は、大粒の「藤みのり」をベースに栽培をスタート。
    400本の苗木から、7年をかけて優秀な個体を選び抜き、ようやく「ブドウ石川1号」と名付けられた1本にたどり着きます。
    これが「ルビーロマン」の原型です。

    その後も試験が繰り返され、2007年に品種登録。「巨峰」の2倍の大きさを誇るブランドぶどうが誕生します。

    10_盛りつけられたルビーロマン

    高級種ならではの品質を保つため、厳しい出荷基準が設けられているのも「ルビーロマン」の特徴です。

    房の重さ、粒の大きさ、糖度、色合いといった基準をクリアするのは、生産量全体のわずか3割。
    つまり、7割のぶどうが、「ルビーロマン」として育てられながらも、「ルビーロマン」として認められません。

    酸味や渋みの少ないすっきりとした甘み、噛んだ瞬間に飛び出す豊富な果汁、そして小ぶりなプラムほどもある大粒な実。
    そんな「ルビーロマン」は、様々な段階で厳選に厳選を重ねた結果、ようやく世に出される逸品なのです。



    名産地、復活のため。「瀬戸ジャイアンツ」

    11_瀬戸ジャイアンツ

    またの名を“桃太郎ぶどう”。
    ハート型の実が桃を思わせること、桃太郎ゆかりの地で開発されたことから、その名で呼ばれることがあります。
    岡山生まれの「瀬戸ジャイアンツ」は、人気急上昇中の新品種です。

    このユニークなぶどうを開発したのは、農業高校の教師をしていた花澤茂。
    きっかけは、地元のぶどう生産に危機感を覚えたことでした。

    12_瀬戸ジャイアンツの収穫

    全国有数のぶどう産地として知られる岡山県ですが、1970年頃をピークに、そのシェアは減少傾向にあるといいます。
    そこで、この地を代表する新たな品種を作り出すべく、世界各国から300以上のぶどうを集め、研究を重ねたそうです。

    試行錯誤の末にたどり着いたのは、岡山での栽培実績があった「ネオ・マスカット」と、欧州系の「グザルカラー」のかけ合わせ。
    その結果、はちきれそうなほどの大きな実と、18度前後の高い糖度、みずみずしい自然の香りを持つ「瀬戸ジャイアンツ」が生まれました。

    ぶどうの人気3条件とされる「大粒」「種なし」「皮ごと食べられる」。それらを兼ね備えた「瀬戸ジャイアンツ」は、間違いなく岡山産ぶどうの“ニューウェーブ”です。

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