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    足元が悦ぶ、つい出かけたくなる。日田下駄のある暮らし

    大分県北西部に位置する日田市。
    阿蘇・九重山系に囲まれた盆地特有の気候により、夏は35度を超える猛暑日が、冬には最低気温が氷点下になる日も珍しくありません。
    この日田ならではの寒暖差が激しい気候は、林業の興隆をもたらし、吉野杉や秋田杉と並んで日本3大美林とも呼ばれる「日田杉」を育みました。

    今回ご紹介する「日田下駄」もそんな風土の中で育ち、日田は日本でも有数の“はきもの産地”としても知られています。

    大分県日田市。親子で受け継ぐ、郷土の名産

    1_大分県日田市の名産の日田下駄の台木を天日干し

    「日田下駄」製造は、日田が江戸幕府の直轄地“天領”だった天保年間(1830~1844年)に、幕府が殖産興業のために奨励したことで発展しました。
    明治以降、全国へ出荷された日田の下駄は一大産地として隆盛を誇りましたが、日本人のライフスタイルの変化とともに需要は減少しています。

    そんな時代の移り変わりを経ても、浴衣や着物姿に下駄を履く、夏祭り、お正月といった日本の歳時記は、今でも変わることはありません。
    日田の地でも、下駄作り職人の手仕事は、変わらず受け継がれています。

    2_日田下駄製造の「本野はきもの工業」は2代目と3代目が親子で家族経営している

    阿蘇山から有明海に注ぐ筑後川の上流にある三隈川。そのほとりに工房を構えるのが、2代目と3代目が家族で営む創業68年の「本野はきもの工業」です。一つ一つ手作りで、丁寧な下駄作りをしています。

    「将来性を考えると、継がなくても構わない…」と、職人歴40年の2代目・本野廣明さんは口にしていたとか。それでも、日田下駄職人の志を継いだ3代目の雅幸さん。現在、34歳です。

    「東京オリンピックの日本選手団の入場は下駄で」

    3_天然杉の台木が特長の日田下駄。鼻緒の柄も鮮やか

    「下駄というと、ひと昔前の履き物というイメージがありますが、ジーンズにも似合うし、ふだん履きもできるんですよ。日本人の足には、下駄が合っていると思います」
    雅幸さんに下駄の魅力を聞くと、そう話してくれました。

    伝統ある日田下駄の技を受け継ぎながらも、エアブラシアートやネイルアートとコラボした下駄、「みゅーる下駄」「はいひーる下駄」といった、現代デザインを取り入れた新しい日田下駄も世に送り出してきた3代目。

    「2020年の東京オリンピックは、ぜひ日本選手団に下駄を履いて入場してほしいです(笑)」
    冗談めかして口にしつつも、その言葉には、揺るぎない物作りへの想いがあふれています。

    削る、塗る、挿げる。手間を惜しまぬ手仕事

    4_傷を取ったり角をなめらかにする。台木を調節する面取り作業

    「本野はきもの工業」の日田下駄作りは、天然杉を型抜きした木の台を木地屋(きじや)から仕入れ、3か月ほど天日で乾燥させることから始まります。
    天然木は加工前に水分を出し切ってしまわないと、工程途中で毛羽立ったり、塗りの乗りが悪かったりと、加工に向いた材料にならないからです。

    5_3か月ほど天日干しされる日田下駄の台木

    約3か月の乾燥が終わると、足裏を乗せる側の角を削る「面取り」作業をします。同時に、木目を選別して具合の良くないものをはじき、木の細かな傷を取ったり、重さを量って規格が同じになるように台木を削ります。

    面取りが終わると、台木の表面を火で焼いて木を引き締め、美しい木目が引き立つ「神代(じんだい)焼き」加工が施されます。

    7_1日1回ひと塗りしては乾かす手間のかかる塗りの作業

    次に、刷毛を使ってウレタンを薄くコーティングする「塗り」の作業に入ります。
    刷毛を使って手作業で行うため、手間と時間はかかりますが、外観を保ち、雨に濡れたりしても長持ちするようになるのです。

    デザインには木目の表情をそのまま活かした「白焼」と、下地に墨汁を塗ってシックな黒に仕立てる「黒塗」とがありますが、「黒塗」の塗り工程は、1日1回塗っては乾かし、1日1回塗っては乾かし、を5回ほど繰り返す時間のかかる作業です。

    6_アスファルトやタイルの地面でも滑りにくいゴム底の下駄底

    その後、ゴム底を台木に貼り付けます。土がむき出しの道をめったに歩くことがなくなった現代では、アスファルトやタイルの地面でも滑りにくくて、安全なゴム底が安心です。

    手間のかかる作業といえば、「めあわせ」は気の抜けない大切な工程。
    天然物の木は、一つ一つ異なる木目を持っています。そのため、2つの台木を1足にそろえた際に、木目が一番しっくりくるものを、職人の経験で一つ一つ組み合わせていくのです。

    8_仕入れ時期によって柄が異なる鼻緒も手作業で挿げられる

    日田下駄作りの最後の仕上げは、鼻緒を挿げる工程。こちらもまた、一つ一つ手作業で丁寧に。
    鼻緒に仕立てられる生地は、仕入れ時期によって異なる柄のため、買い求める時期によって、1足ごとに違うデザインの柄が楽しめるそうです。


    日田の豊かな自然と職人の手仕事が届ける、唯一無二の私の下駄

    9_下駄を履いて出かける日本の歳時記は決してなくならない

    木目がすべて異なる天然杉の台木は、自然が織りなすこの世にふたつとないデザイン。鼻緒もまた、木の表情に合わせた一つ一つ異なる柄。
    こうして出来上がった日田下駄は、日田の自然と職人の手仕事が届ける、この世にたったひとつしかない唯一無二の履き物になりました。

    浴衣や着物姿で下駄を履いて街を歩く四季折々の風景は、日本人のDNAに織り込まれた唯一無二の日本の姿。下駄のある暮らしは、日本の豊かな情景を彩ります。
    ぜひ一度、足ざわりをご自身の歩みで感じてみませんか?

    (撮影) 江上 真、大橋祐希
    (写真提供) 本野はきもの工業
    この記事を書いた著者
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