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    雨の日をもっと美しく。数少ない日本の傘職人が作る「小宮商店」の傘

    かつて日本が、傘の生産量・輸出量ともに世界一だったのをご存じですか?けれども今日では、99%の傘が海外からの輸入品。職人が手作りした日本製の傘は、わずか1%に留まるといいます。

    「海外製の傘がダメだと言いたいわけではないんです。ただ、失われかけている日本の傘職人の技術を、もっと知ってほしい」

    そう語るのは小宮宏之さん。東京・日本橋でいまも国産傘を作り続ける専門店「小宮商店」の3代目です。

    傘は消耗品じゃない。洋傘の栄枯盛衰を見つめてきた創業86年の老舗

    1_洋傘の老舗「小宮商店」の外観
    傘作りの老舗は、東日本橋の裏路地にひっそりと佇む

    小宮商店の創業は、洋傘がまだ高級品だった1930年。一時は空襲によって店舗を失いますが、時代が高度経済成長を迎える頃には、「作っても作っても追いつかない」ほどの最盛期を経験したそうです。

    2_小宮商店の専属傘職人
    小宮商店には現在、3人の専属傘職人がいる

    ところが、バブル崩壊後に試練が訪れます。安く、早く、大量に生産される海外製の傘の普及です。アジア諸国の量産品が多く持ち込まれた結果、傘は価格破壊を起こします。

    壊れても買い直せばいい。いつしか傘は、平然と“使い捨て”られる消耗品に変わってしまったのです。

    3_甲州織「かさね」(オレンジ×ベージュ)
    小宮商店の代表作「かさね」。
    表と裏に異なる色を重ねた鮮やかな傘

    そんな時代にあって、いや、そんな時代だからこそ、大量生産品とは違う丁寧な作りを求めて、小宮の傘に再び注目が集まっています。その背景には、老舗が守り抜いてきた日本の職人ならではの高度な技術がありました。

    使う機械はミシンだけ。すべてが手作業で行われる小宮商店の傘作り

    4_細かい手作業に集中する傘職人
    一人前の傘職人になるには、10年の歳月を必要とする

    「わずか数ミリの誤差が傘全体に影響し、形状に狂いが出てきます。それだけ精度が求められる仕事だからこそ、1日に4~5本作るのが限界なんです」

    小宮商店で営業を担当する小山剛さんは、自社製品への愛情たっぷりにそう教えてくれました。事実、いくつもの工程を経て完成する小宮の傘は、一つ一つ時間をかけて作られます。

    ここで、職人の傘作りを覗いてみましょう。その工程は、生地を裁断するところから始まります。

    1. 傘生地の三角裁断
    2. まずは元になる生地から、コマと呼ばれる三角形の生地を切り出します。傘のフォルムの美しさを決める、最初にしてもっともデリケートな工程です。


    3. 中縫い
    4. コマが揃ったら、傘専用のミシンでそれらを縫い合わせます。わずかなズレやヨレが命取りになる、とても難易度の高い作業です。


    5. ダボ包み、ろくろ包みの取り付け
    6. 傘の親骨にある関節部分を「ダボ」といい、ここを小さな布で包むのが「タボ包み」です。生地がダボと擦れて傷つくのを防ぎます。

      5_「ダボ包み」と「ろくろ包み」
      「ダボ包み」(左)と「ろくろ包み」(右)。
      どちらも高級傘ならではのひと手間

      「ろくろ」は、傘を開くときに押し上げる部分のこと。使う人の手が痛まないようにとの配慮から、こちらも布で包みます。


    7. 天かがり~口とじ
    8. 続いて、さきほど縫い合わせた傘生地のカバーを、傘骨に被せます。その際に頂点を糸で縫い付けるのが「天かがり」。その後、骨の先端とカバーを縫い合わせるのが「口とじ」です。絶妙な張り加減になるよう、何度も微調整が繰り返されます。


    9. 中とじ
    10. 傘の張りが安定するよう、傘骨とカバーをさらに縫い留めていきます。「生地の張りは強すぎもせず、緩すぎもせず、わずかに中央が弛んでいる、この絶妙な加減が重要です」と小山さん。


    11. 陣笠、菊座の取り付け
    12. ここで最後の仕上げです。傘の頂点に取り付けられる防水布を「菊座」、同じく傘の頂点にある円錐型の器具を「陣笠」と呼びます。普段はあまり目にしない部分ですが、ここの取り付けが雑だと、傘が雨漏りを起こしてしまうんだとか。


    13. 手元付け
    14. 傘の持ち手となる「手元」を取り付ければ完成です。外れにくくするため、中棒に糸を巻き付けてから取り付けるなど、ここにも細かな工夫があります。


    2つの色を重ねた生地が、雨の日を鮮やかに彩る「かさね」

    6_甲州織「かさね」のカラーバリエーション5つ
    「かさね」には「傘音」の意味も込められている。
    美しく張られた傘は、雨粒の当たるまで美しいという

    傘職人として一人前になるためには、およそ10年かかるといわれます。傘作りの複雑で細かい工程を知れば、それも納得です。ここでは、そんな熟練の職人たちが手がける、小宮商店の傘を紹介しましょう。

    まずは小宮商店でもっとも人気の定番傘「かさね」。表と裏、それぞれ異なる色で織られた鮮やかな傘です。

    7_甲州織「かさね」を広げて並べる
    「コーラルレッド×アイボリー」「ネイビー×パープル」など、
    さまざまなカラーバリエーションがそろう

    生地に使われている甲州織は、カーテンやネクタイ、服の裏地などに使われるのが一般的。ですが、小宮商店では創業時から、これを傘の素材として使っています。織りの密度が高いため、傘に向いているそうです。

    8_甲州織「かさね」のダボ包み
    「ダボ包み」は高級傘の証

    和傘を思わせる16本骨の作りは、美しさと強度を両立させるのに最適だそう。親骨にはカーボン、中骨にはアルミを使用することで、16本骨の懸念点である重さが解消されています。

    日本古来の文様を浮かべた、西陣織の高級傘「正倉院裂」

    9_西陣織の高級傘「正倉院裂」
    気品あふれる「正倉院裂」

    もうひとつ、西陣織を使った晴雨兼用傘「正倉院裂」を紹介します。

    正倉院裂(ぎれ)とは、奈良・東大寺に残る染織品で、現存する日本最古の織物。この文様を、西陣織の最新技術で再現した傘です。

    10_「正倉院裂」の3つの柄を並べる
    「葡萄唐草文」(左)、「山羊文」(中央)、「鴛鴦唐草文」(右)

    生地はしっかりと肉厚で、正倉院裂の絵柄からは気品が漂います。西陣織の存在感と、日本古来の文様が織りなす美しい佇まいです。華やかなのに気取りがなく、着物などと合わせて持つのにぴったりではないでしょうか。

    11_「正倉院裂」に取り付けられたろくろ包み
    高級感を引き立てる「ろくろ包み」。
    もちろん「ダボ包み」も付けられている

    「かさね」と同じく、骨にはカーボン素材を使用しているため、見た目の重厚感に比べて重さはまったく気になりません。

    傘は暮らしに欠かせない道具。だから、一生使い続けられるものを

    12_窓際に並べられた甲州織「かさね」
    丁寧に作られた老舗の傘は、雨の日を楽しく、美しくする

    小宮商店の傘は、間違いなく一生ものになります。

    「傘ひとつが2万円というと、どうしても高く感じてしまいます。でも、暮らしに欠かせない道具と考えれば、靴や時計と同じなんです」(小宮宏之さん)

    良い靴を買えば、すぐに出かけたくなるように。良い時計を買えば、何度も時間を確認したくなるように。本当に良い傘は、差しているだけで雨の日が楽しく、美しくなります。

    いま、もう一度、傘を見直してみませんか?

    この記事を書いた著者
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    lilimo編集部
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